拝啓、クラブに4年間を注ぐ野郎ども

先日、4年間所属していたクラブを引退した。
正確には2年途中からクラブ活動から離れていき、ライブハウス等で活動していたので実質2年程度の所属と言った方が正しいかもしれない。

いわゆる軽音楽のクラブ。
サークルでなくクラブだということを僕はこっそり強調しておきたい。

大学の軽音楽というのは高校の様なコピーばかりをするのが中心でなく、自分たちで曲を作るオリジナルバンドばかりだと思って、僕は大学のクラブの扉を叩いた。
実際にはオリジナルバンドはほとんどいなかったけど、今まで見たことのないような上手い人がたくさんいて(下手な人もたくさんいたけど笑)、やっぱり大学は違うなぁと感動したことを今でも覚えている。
でも、僕はテクニックよりも「音楽で飯を食う!」ぐらいの時代遅れかもしれないし、格好悪いかもしれないけれどそんな夢を持っている人とバンドをしたかった。
そして、そんなことを考えている人が片手で数えられる人もいなかったけれども、同じ扉の向こうにいたことはなんとも幸運なことだったと思う。ぼくはそんな勘違い野郎たちと熱い思いを盃に誓いバンドを結成した。


その後、盃を掲げた情熱をどこかに置いてきた自分が言うのはナンセンスなのは百も承知だし、自分がやっている(いた)音楽についてなにか語るのは最高にダサいことだと思ってるのであんまり口にはしないが、本当に素晴らしいバンドだったと思う(抜けたから過去形にしているだけで、現在も格好良いはず)。
僕は今でも彼が作る曲が好きだし、ベースの野郎は音がクソでリズム感も全くなかったけど、たまに変なんだけどめっちゃ良いラインを弾くし、ドラムのやつも、上手くはないけど僕は彼の下手っぴだから出る、音達がとても好きだ。ほんとに皆それぞれの個性があって、ぼくの個性はなんなんだ。とか悩んでたりしたこともあった。

そんな人達に出会えたクラブというものは、振り返ってみるとやっぱり素晴らしいと思えてしまう、形のない宝物なのかもしれない。(過去の話は綺麗になっちゃう効果もあると思う)
だけど、僕はクラブというものにずっとくっつくことは、あんまり好きではない。
それは、身内ノリが苦手で軽音楽クラブというのは案外、そういうものが多いものだからなのかなと思う。

そんなわけで、クラブの外でバンドをやっていなくても僕が離れていったのは必然だと思うけれど、最後の学祭でPA(ライブでバンドの音を、来ているお客さんに楽しく聞けるように調整する人のこと)をやっていて思ったことがあるので少し書こうと思う。


やっぱり軽音楽のクラブは身内ノリだ。
上手い人もいるけれど下手クソの方が多い。慣れ合いで「先輩、上手いっすねぇー」とか言われると、「こいつ、なにいうとるんや」と関西弁がむき出しになったりもする。井の中の蛙になってる野郎もいる(あと、テクニック的に上手いだけでは機械に負ける日が来ると思う。というか来てる)。

そして、僕はPAだけでなく、1バンドだけ演奏することになっていた。
出る理由は単純に、安い1万円のギターと自分の制作したエフェクターを使って良い音を出して、慣れ合いで褒めてくる野郎どもにエフェクターを高く売ろうというなんともゲスい商法のためだ。
だけど、結果は失敗に終わった。自分たちの演奏がひどかったからだ。まともに全員で練習したのが2時間程度だったから当然と言えば当然かもしれない。
そして、ライブ本番一緒にやっている後輩の一人がとっても下手くそだった。構成もバンバン間違えるし、周りの音を全然聞かないし、音色もクソだった。

しかし彼は終演後、しきりに「めちゃくちゃ楽しかったです−。マジ最高でしたー。気持ちよかったです。」と口走っていた。ぼくは内心、「コイツ、なにいうとるんや、恥ずかしないんか、あんな演奏して。」とはたまた関西弁で思っていたが、彼があまりに笑顔だったのでなにも言えなかった。

そして、次のバンドでも彼は出演していた。
彼はまたも下手くそだった。
だけど、彼はすごい笑顔で音を鳴らしていて、なんだか僕はこの野郎には勝てないなと思った。


音楽で飯を食っていくには演奏にもとってもシビアにならないとやっていけない。凡人が死ぬほど羨む「センス」というものも必要不可欠だろう。

だけど、彼は音楽で飯で食っていくなんて考えたこともないのだろう。自分が好きなバンドを聴いて、その人達の音をコピーして、同じ楽器を買ったりして同じ音を出すだけで満足するのだろう。
ライブハウスで働いたりして他の大学の軽音楽クラブもいくつか見てきたけれど(圧倒的にプロのバンドの方が多いけれど)、そういう考え方がきっと主流なのだろう。(でも学外で本気活動している学生バンドもたくさんいる)
そして、演奏後に安い居酒屋に行き、その演奏をつまみにしてガヤガヤ騒ぐのだろう。

身内ノリとかオナニー演奏会のようなそんなものを嫌いだと思っていたけど、そんな環境でばかみたいに笑ってるやつも実は素敵で、そんな居場所を持ってるような奴が少しうらやましくも見えたりした。そんな最後の学祭だった。

ちなみに飲み会には行っていない。少しだけ後悔してる気持ちもあるけれど、行ったら行ったで、しょうもないと思っているのがきっと僕の腐った性分なのだろう。

安いしょうもない酒を至高の味と勘違いし、最高の笑顔を見せる学生共に乾杯。


このPVは大学の部室で先輩に撮ってもらいました。懐かしい。